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2023年度岡山理科大学プロジェクト研究推進事業

多波長 – 多光子分光法を利用した新規計測法の開拓

理学部化学科・講師 高橋広奈(代表者)

理学部化学科・教授 酒井誠

愛媛大学大学院・講師 石橋千英

愛媛大学大学院・教授 朝日剛

本研究の背景と目的

 岡山理大・酒井と愛媛大・朝日が中心となり「分光学」と「顕微鏡」の両者を融合させ、分子の事も形の事もわかる新しい観察手法を開拓してきた。これらの研究推進においては2波長分光法と非線形光学(多光子)過程がキーとなっていたが、これを更に発展させた「多波長 – 多光子分光法」を用い、岡山理大・高橋は特に多波長に着目して共鳴IR法を、愛媛大・石橋は多光子過程を導入した時空間計測法を、それぞれ開発した。共鳴IR法(岡山理大・高橋)は、過渡蛍光検出赤外(TFD-IR)分光法と赤外超解像技術を組み合わせることで、蛍光分子のみの選択的赤外分光計測を実現したもので、従来は測定が困難であった水溶液中における蛍光性生体分子の赤外スペクトル測定に成功している。時空間計測法(愛媛大・石橋)においては、光エネルギー変換材料として注目されているジアリールエテンのナノ粒子にナノ秒パルスレーザーを照射すると、その光異性化反応が溶液系と比較して最大で80倍高効率に起こることを見出した。

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本プロジェクトでは、「多波長 – 多光子分光法」をキーに、生体試料内部における局所的な分子構造や光熱変換過程、分子ダイナミクスの解明を目指し、分子選択性と時空間分解能を極限まで高めた新規計測法の開拓にチャレンジする。

2023年度の研究計画

 多波長 – 多光子での光学過程は、通常の光応答とは異なる挙動を示すものが多々ある。岡山理大、愛媛大のそれぞれのチームにおいて、分子選択的な・時間分解・空間分解観測に取り組む。

(岡山理大)共鳴IR法

 岡山理大・高橋らが開発した共鳴IR法では、2波長 – 2光子を制御することで、蛍光タンパク質内部の発色団だけを選択的に観測しながら、① 振動数から分子構造を同定する、② 信号増強されるバンドから電子励起状態における構造変化を明らかにする、③ バンドごとの振動緩和速度から周囲の分子(例えば溶媒など)との相互作用を解明する、が行える。特に ③の特徴を利用すれば、時間分解計測によって蛍光タンパク質発色団が得た振動エネルギーが、どの結合を介して、どのような時間スケールで、散逸していくかを追跡できる。これはタンパク質部位と発色団を擬似的に空間分解することに相当すると考えている。

(愛媛大)時空間計測法

 光照射による光異性化反応の高効率化については、そのメカニズムとして、1つのナノ粒子中で、ナノスケール(ナノ秒時間&ナノメートルスケール)での光熱変換過程と光化学反応との協同効果の存在が示唆されている。このようなナノ秒パルスレーザーによる光反応の増幅現象は世界的に例がなく、その概念は新たな光エネルギー利用法として期待できるものである。光熱変換過程と光化学反応との協同現象が起こるためには複数の光子と複数の分子が相互作用する必要があり、分子密度の高いナノ粒子固体と光子密度の高いパルスレーザーの組み合わせで初めて起こると考えられているが、その詳細は未解明である。本研究では、生体試料内で起こる多光子 – 多分子過程を模索し、多波長を導入した時空間計測法で、メカニズムの解明や光化学・光物理反応の高効率化へ向けた指針を得ることを目指す。

2024年度の研究計画

 岡山理大チーム、愛媛大チームとも基本的には、2023年度の研究を継続して推進するが、本研究成果をベースとした今後の展開・発展を考慮に入れ、アウトプット側に関連する下記の1〜3の項目も併せて推進する。

  1.多波長 – 多光子分光法を利用した新規計測法の性能評価

  2.分子情報抽出の検討

  3.顕微鏡技術を利用した新たな計測法の模索

 特に3に関しては、より多波長 – 多光子の過程を利用した分光計測に繋げるため、赤外超解像顕微鏡技術(岡山理大・酒井)や時間分解光学顕微鏡技術(愛媛大・朝日)の提供を受ける。以上の計画により、将来の新規計測法の開発に繋げたい。

進捗状況

岡山理大チームにおける『共鳴IR法』を蛍光タンパク質に適用し、発色団の構造や周囲との相互作用を分光学的に明らかにすることを試みた。図に示すように蛍光タンパク質に可視光を照射した場合、周囲のタンパク質部位はエネルギー的に励起一重項状態には励起できないため蛍光が発生しないが、発色団部位からは過渡蛍光が発生する。過渡蛍光強度をモニターしながら赤外光を波長掃引することで、発色団部位のみの赤外スペクトルが得られると考えた。実際にいくつかの蛍光タンパク質について測定したところ、希薄かつ微量な溶液で、極めてS/N比の良いスペクトルが得られた。全ての共鳴IRスペクトルにおいて、タンパク質のアミドI領域でピークが観察されておらず、発色団のみが選択的に観測された。

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共鳴IR法による発色団の分子選択的分光計測

以上の成果は、下記の学会等にて発表を行った。

 

1) Selective IR measurement of chromophore of fluorescent proteins as studied by resonance IR method  

Hirona Takahashi, Makoto Sakai

The 8th Asian Spectroscopy Conference (ASC2023) 2023年9月4日

2) Selective IR super-resolution imaging of β-keratins at the bulk or interface in feather detected by a nonlinear optical process   

Hirona Takahashi, Makoto Sakai

The 8th Asian Spectroscopy Conference (ASC2023) 2023年9月5日

3) 共鳴IR法を利用した蛍光タンパク質発色団部位の選択的赤外分光計測   

高橋広奈, 酒井誠

第17回分子科学討論会2023 大阪 2023年9月13日

4) Novel method for IR measurements of biomolecules by two-color laser spectroscopy

Hirona Takahashi

Rokkakubashi International;Workshop on Physical Chemistry 1 2023年9月21日

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