top of page

2021年度岡山理科大学プロジェクト研究推進事業

マルチモーダル顕微鏡技術を駆使した生体内ナノ空間機能解析​

理学部化学科・教授 酒井誠(代表者)

理学部化学科・講師 高橋広奈

愛媛大学大学院・教授 朝日剛

愛媛大学大学院・講師 石橋千英

本研究の背景と目的

「分光学」は光を使って分子の性質を調べるもので、分子の事を詳細に知ることができる。しかしながら、それは、溶液や気相のような均一系の「もの」を観察している場合であって、様々なものが混じっている「もの」、例えば、細胞を観察した場合、分光スペクトルの測定は可能であるが、細胞内のどこに、どの分子がどれだけいるのかを明らかにすることは出来ない。「顕微鏡」はというと、「もの」の位置や形が非常に良くわかる点では他の追随を許さない。しかし、その「もの」の中身がどのような分子で構成されているのか、何が入っているのかを知ることは全く出来ない。そこで、私たちは「分光学」「顕微鏡」の両者を融合させたら、分子の事も形の事もわかる新しい領域が開拓できるのではないか?と考え、本プロジェクトを着想した。

本プロジェクトでは、岡山理大・酒井らが開発した赤外超解像顕微鏡技術と愛媛大・朝日らが開発した時間分解光学顕微鏡技術を駆使し、マルチモーダル顕微鏡として利用すれば、ナノ空間領域において、分子の構造および反応ダイナミックス観察を実現し、新たな「ナノ空間機能解析」法の確立が可能と考えた。

2021年度の研究計画

 マルチモーダルとは、Multi(複数)とModal(様式)を組み合わせた造語で、複数の、複数の形式の、複数の手段による、などの意で近年使われ始めている。マルチモーダル顕微鏡は、多機能な情報処理能力を有する顕微鏡として認識されつつあり、本研究においても顕微鏡のマルチモーダル化は研究推進の鍵である。2021年度は各チームが所有する顕微鏡のマルチモーダル化を推し進める。

(岡山理大)赤外超解像顕微鏡

 岡山理大チームでは、汎用型光学顕微鏡をベースに高い空間分解能で試料観察が可能な赤外イメージング機能を加えたマルチモーダル顕微鏡の開発を推進する。まず第1に、振動和周波発生(VSFG)法(2次の非線形光学効果)を顕微鏡技術に応用することで、試料内部の界面近傍の分子やキラル分子の分布・配向情報を分子種選択的に抽出可能の手法として確立する。第2に、四光波混合(4-wave)法を顕微鏡技術に応用した赤外超解像顕微鏡を開発する。4-waveは3次の非線形光学効果であるため、界面から離れたバルクからの信号が強く観測される。これは、生体試料中の特定の分子種の含有量(濃度)に比例する情報を抽出できる可能性を示す。よって、2種類の赤外超解像顕微鏡を駆使することで、生体試料内部の特定の分子種の選択的観察を実現し、分布・配向・濃度を含めた精密な分子構造解析を目指す。

(愛媛大)時間分解光学顕微鏡

 愛媛大チームでは、汎用型光学顕微鏡をベースとして時間分解吸収顕微鏡および時間分解蛍光顕微鏡の2種の機能を加えたマルチモーダル顕微鏡の開発を推進する。時間分解ポンプ−プローブ法を基盤とするため、分子の反応ダイナミックスの実時間観察に優れる。まずは、反応中間体の吸収に対してプローブ光の波長と時間を自在に選択することで、時間分解吸収顕微鏡の手法確立を行う。次に、反応中間体からの発光現象に着目し、発光波長と時間(寿命)の観察を実現する。この2種類の時間分解光学顕微鏡を駆使することで、高い分子選択性を有する精密な反応ダイナミックス解析を目指す。

2022年度の研究計画

 岡山理大チーム、愛媛大チームとも基本的には、2021年度の研究を継続して推進するが、本研究成果をベースとした今後の展開・発展を考慮に入れ、アウトプット側に関連する下記の1〜3の項目も併せて推進する。

1.マルチモーダル顕微鏡の性能評価

2.分子情報抽出の検討

3.新規顕微鏡法・新規計測法の開発

 以上の計画により、将来の新規顕微鏡法・新規計測法の開発に繋げたい。

進捗状況

岡山理大チームにおける赤外超解像顕微鏡のマルチモーダル化は既に成功した。図に2種類の顕微鏡による羽毛内部β-ケラチンの観察結果を併せて示すが、VSFG法、4-wave法ともにシグナル光、可視光、赤外光の順に偏光の組み合わせは、XXY、YYXの2組で観察した。VSFG法では試料内部の界面近傍のβ-ケラチンを選択的に観察されており、顕著な偏光依存性が観察されたことから界面近傍のβ-ケラチンは一様に配向していることもわかる。一方、4-wave法では偏光依存性がほとんど観察されていない。これは、界面から離れたバルク部分のβ-ケラチンが4回転周期構造であるという過去の報告と矛盾しない結果である。

羽毛β-ケラチンのVSFGおよび4-wave像

以上の成果は、下記の学会等にて発表を行った。

 

1) 非線形光学過程を利用した2種類の赤外超解像顕微鏡による羽毛内ケラチンタンパク質の選択的観察  

高橋広奈, 片山康平, 伊田哲也, 酒井誠

第15回分子科学討論会 2021年9月18日

2) 非線形光学過程を利用した2種類の赤外超解像顕微鏡による生体試料内ケラチンタンパク質の選択的観察  

高橋広奈, 伊田哲也, 片山康平, 酒井誠

第59回日本生物物理学会年会 2021年11月26日

3) Chirality imaging of keratin proteins in biological samples by an IR super-resolution micro-spectroscopy based on non-linear optical process  

Hirona Takahashi, Nándor Bokor, Makoto Sakai 

The 2021 International Chemical Congress of Pacific Basin Societies 

2021年12月17日

4) IR measurement of fluorescent biological molecules in aqueous solution by resonance IR spectroscopy,  

Hirona Takahashi, Makoto Sakai 

The 2021 International Chemical Congress of Pacific Basin Societies 2021年12月22日

5) 赤外超解像顕微鏡によるガチョウ羽毛の内部構造観察 -β-ケラチンの分布・配向・含有量変化-

片山康平, 高橋広奈, 酒井誠

生細胞分光部会オンライン研究会 2022年3月15日

6) 赤外超解像顕微鏡による爪ケラチンタンパク質二次構造の選択的観察

高橋広奈, 片山康平, 伊田哲也, 酒井誠

第16回分子科学討論会 2022年9月21日

7) 非線形光学過程を利用した2種類の赤外超解像顕微鏡による生体試料の観察

高橋広奈, 酒井誠

第60回日本生物物理学会年会 2022年9月28日

8) 赤外超解像顕微鏡による爪ケラチンタンパク質の分布・配向観察  

高橋広奈, 伊田哲也, 片山康平, 酒井誠

第60回日本生物物理学会年会 2022年9月28日

bottom of page